例えば何かモノを買うときに、あなたには「この商品ならコレ!」と決めているものがありますか? それは商品そのものであったり、その商品を販売しているメーカーであったりするかもしれませんが、もしあなたがそのように指名買いをしている顧客なら、企業にとっては大変ありがたい【お客様】ということになります。
ロイヤルカスタマーを増やすことにもつながるブランディング。その施策を成功に導く秘訣とは何でしょうか?
ブランディングとは何か?
もしスーパーで同じような大きさ・重さ、同じような品質・鮮度のキャベツが並んでいたとしたら、あなたはどのような判断基準でキャベツを選びますか? 仮にそのキャベツの値段が少しずつ違っていたとしたら、間違いなく一番安いキャベツを選ぶのではないでしょうか。
もう一つ仮に、そのキャベツの中に聞いたことはないが生産者の名前が書いてあるキャベツがあったなら、あなたはそれを選びますか? 意見は分かれるかもしれませんね。
「名前が書いてあるなら、何かあっても責任を負う覚悟で書いてあるのだから買う」
「たとえ名前が書いてあっても、知らない名前なら判断基準にはしない」
マーケティングにおけるブランディングとは、ただ単に製品にブランドネーム(この場合は生産者の名前)を書くことではありません。また認知を高めるために、宣伝だけを行うものでもありません。ブランディングとは、「認知を高めると共に、自社の製品に有利な一定のイメージを顧客の記憶にとどめる」マーケティング活動を意味します。
もしキャベツ生産者の名前に、「良いものを安く、そして安全な野菜を誠実に作っている生産者」というイメージがあったなら、意見は分かれることなく、多少高くてもそのキャベツは購入されていくでしょう。このような効果を狙うマーケティング活動が、ブランディングなのです。
ブランディングのメリットは?
ブランディングのメリットはいくつかありますが、前述したように競合との差別化が一番に挙げられるでしょう。差別化のポイントを明確に打ち出せれば、利益の消耗戦になってしまうような価格競争も回避することができます。
また顧客に長く商品やサービスを選んでもらえればLTVの最大化にも効果があり、無駄な広告宣伝費を使わずに済めば、コストの低減効果もメリットに加わります。
良いことずくめのブランディングですが、デメリットもあります。ブランドのイメージは、一度傷つくと回復に大変時間とお金がかかること。そしてそもそも、顧客の判断基準に影響を及ぼすようなブランディングを行うことはとても難しいものです。多くの場合、長期間にわたり継続的な企業努力が必要になります。顧客からの信頼は、一朝一夕に得られるものではないのです。
ブランディングのメリット | ブランディングのデメリット |
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ブランディングの成功例
米国のアップル社は、顧客からの揺るぎない信頼を得てブランディングを成功させている企業の一つです。アップル社と言えば、その商品では何を思い浮かべますか?
- iPhone
- iPad
- Apple Watch
- Mac(Macintosh)
といったところでしょうか。
ある調査によれば、2019年4月の日本におけるiPhoneのシェアは41.93% !(※1)他はAndroid端末と言うことになるのですが、Androidの比率が数十社で構成されていることを考えれば、アップル社が供給するiPhoneのシェアは絶大であることがわかります。
また2018年のiPadシェアは、タブレット製品で9年連続1位 をキープ。(※2)Apple Watchに至っては、スマートウォッチというカテゴリーだけでなく、あらゆるウェアラブル端末市場におけるシェアが51%となっています。(※3)
さすがにコンピュータ市場におけるMacのシェアは約8% と高くありませんが、ミュージシャンやアーチスト、デザイナーからは圧倒的な支持を受けています。(※4)
なぜアップル製品はこのように高い支持を受けているのか?
それは今は亡きカリスマ経営者、スティーブ・ジョブズが行ったイメージ戦略が元になっていると言われています。
アップルは1997年、「Think Different.」というキャンペーンを展開します。このキャンペーンの多くはTVCMを通じて配信されましたが、CMに登場するのはアインシュタイン、ジョン・レノン、ピカソ、エジソン、モハメド・アリといった世界を変えた人たち。アップル製品は一個も登場しません。
このキャンペーンのメッセージは、アップル製品がこの人たちのように革新的な製品であると言うこと、アップルという企業がこの人たちのような思想を持った企業であることを印象づけるためのものでした。
アップル製品は妥協のないデザインと素材、設計思想に貫かれる独特の哲学で、世界中の顧客から信頼を集めています。そしてアップル製品を使う、という行為を【特別な価値】としてブランディングし続けているのです。
ブランディングの手法にはどのようなものがあるか
ブランディングには決まった手法があるわけではありません。ですがあらかじめゴールとなる指標を決め、その目標を達成するために施策を講じるという手順は必要です。
ターゲティング(STP)
ブランディングする対象をあらかじめ決めておくことは必要不可欠です。通常のマーケティングにも用いるSTP分析の手法で、ターゲットを明確にしておきましょう。
ブランドパーソナリティの設定
通常のマーケティングにおけるペルソナ設定とほぼ同じです。そのブランドを人にたとえたならば、どのような人物なのか? をあらかじめ決めておきます。スティーブ・ジョブズが行った「Think Different.」というキャンペーンは、まさにコレですね。
ブランドアイデンティティの構築
ブランドアイデンティティとは、ブランド戦略、ブランディングの基礎となる考え方のことです。人によってはブランド・ビジョンと呼ぶこともありますが、この基礎となる考え方を自社が実現したいブランディングの目標と位置付けます。
その上で「製品」「ロゴ」「企業イメージ」「Web」等、すべての企業活動に構築・適用していくのです。一番目に付くところでは、企業名のロゴに併記されていることが多いようです。
ブランドロイヤリティ(ロイヤルティ)指標の設定・効果測定
一般的にはあらかじめ現状をアンケート調査などで調べ、ブランディング後にもう一度調査することで効果測定を行います。ブランドイメージの浸透をはじめとするブランディングの効果は、定性的なデータからしか調べることができないからです。
アンケート項目の例としては製品やサービスに対する「満足度」「信頼感」「品質に対する評価」「企業へのイメージ」などで、指標は現状の「○○%アップ」などとすることが多いようです。
ブランドマネジメント
ブランディングの効果を維持していく活動を、ブランドマネジメントと言います。実際にはブランドロイヤリティ(ロイヤルティ)指標の調査を通じ、PDCAサイクルを回して継続的にブランディング施策を行っていきます。
まとめ
欧米を特別扱いするわけではありませんが、日本の企業に比べ欧米の企業はブランディング施策に長けていると言われています。
実際、企業ブランドのランキングを見ると、上位はほとんど米国の企業で占められて います。国際化が進む社会において、言葉の壁を越えるブランドイメージの浸透が企業の生き残りに影響してくることは間違いありません。
今後ますますブランディングの必要性は高まっていくことでしょう。
参照
(※1)株式会社 ウェブレッジ「スマートフォン・シェアランキングTOP10」
(※2)株式会社MM総研「2018年度通期国内タブレット端末出荷概況」
(※3)「Smartwatch unit sales up 61 percent in 2018 as Apple is ‘the clear market leader,’ NPD says」
(※4)「Global Notebook Shipments to Increase Slightly by 3.9% QoQ in 3Q18, Lower than Expected due to Intel CPU Shortage, Says TrendForce」